スラッグの話。
さて…今日はスラッグについて。製造業、特に鉄鋼の現場では当たり前の言葉だけど、意外と知らない人も多いかもしれない。要するに、金属を作るときに出てくる副産物だ。 [鉱さい、とも言う]。
昔はただの産廃だったものが、今は大事な資源として扱われてる。 地球にやさしい、とか、グリーン調達とか、そういう文脈でよく聞くようになった気がする。
で、これ、何になるの?
いきなりだけど、使い道から話した方が分かりやすい。一番多いのは、セメントの原料。 高炉セメントっていう、CO2排出量を抑えられるセメントに使われる。 これは大きい。
あとは、道路。路盤材、つまり道路のアスファルトの下に敷く砂利みたいなもの。 それからコンクリートに混ぜる骨材としても。 天然の砂利や砂の代わりに使うことで、資源を守ることにも繋がる。
他にも、地盤改良材とか、港湾工事とか。 最近だと、海藻が育つ環境を作るために使ったり、農業用の肥料として使われたりもするらしい。 リンとかケイ酸とか、植物に必要な成分も入ってるから。うーん、奥が深い。
大きく分けて2種類ある
鉄鋼スラグは、作られる工程によって2つに大別される。 ここが一番大事なポイントかもしれない。
- 高炉スラグ: 鉄鉱石から鉄を取り出す「高炉」ってところで出るやつ。
- 製鋼スラグ: その鉄をさらに良質な「鋼」にする「製鋼」の工程で出るやつ。
…で、さらに細かく分かれる。特に高炉スラグは、冷やし方で性質がガラッと変わる。水で一気に冷やすと「水砕スラグ」っていうガラス質の砂みたいになる。 ゆっくり冷やすと「徐冷スラグ」っていうゴツゴツした岩石状になる。 この違いが、後の使い道を決める。
製鋼スラグも「転炉系」と「電気炉系」がある。 まあ、ここはちょっと専門的すぎるから、一旦は「高炉」と「製鋼」の2つがある、とだけ覚えておけばいいかな。
どうやって選ぶ? 基本的な考え方
じゃあ、もし自分が使う立場だったら、どう選べばいいのか。これは、何に使うか、でほぼ決まる。
まず、セメントとかコンクリートの混和材として使いたいなら、ほぼ「高炉水砕スラグ」一択。 潜在水硬性っていう、アルカリ性の刺激で固まる特殊な性質を持ってるから。
道路の路盤材とか、土木用途なら、高炉の「徐冷スラグ」や「製鋼スラグ」が候補になる。 こっちは硬くて丈夫なのが取り柄。 ただ、製鋼スラグはちょっと注意が必要な点もある。後で触れるけど。
大切なのは、ちゃんと規格に合ったものを選ぶこと。日本ではJIS規格がしっかり整備されている。 例えば、道路用なら「JIS A 5015」、コンクリート用骨材なら「JIS A 5011」シリーズ、みたいに。 こういう規格品を選ぶのが、品質と安全性を確保する上での大前提だ。
ちなみに、海外だと事情が違う。例えばアメリカではASTM Internationalの規格が一般的。 ASTM C989はスラグセメントの仕様だったかな。 もし輸出入に関わるなら、こういう国ごとの規格の違いは把握しておかないといけない。 日本のJISがそのまま通用するわけじゃないから。
比較表:高炉スラグ vs 製鋼スラグ
| 項目 | 高炉スラグ | 製鋼スラグ |
|---|---|---|
| 出てくる場所 | 鉄鉱石から鉄を作る「高炉」。上工程。 | 鉄から鋼を作る「製鋼炉」。後工程。 |
| 主な成分 | シリカ(SiO2)とかアルミナ(Al2O3)が多め。セメントに近い。 | 酸化カルシウム(CaO)が多い。あと鉄分も少し残ってる。 |
| 主な使い道 | セメント原料、コンクリート骨材(特に水砕)。 | 路盤材、土木用材、地盤改良材。 |
| 気をつける点 | まあ、比較的安定してる。用途も確立されてる感じ。 | free-CaO(遊離石灰)を含むことがあって、これが水と反応して膨張することがある。 だからエージングっていう安定化処理が必須。 |
| 見た目(個人的印象) | 白っぽくて、軽い感じ。(水砕は砂、徐冷は軽石っぽい) | 黒っぽくて、ゴツゴツしてて、重い感じ。 |
ありがちな誤解と注意点
「スラグは全部同じ」…これが一番の間違い。見てきたように、成り立ちも性質も全然違う。 特に製鋼スラグの膨張性は、昔トラブルになったこともあるらしい。 民家の盛り土に使ったら、家が傾いたとか…。 今はエージング処理っていう対策が確立されてるけど、用途を守ることはすごく大事。
あと、「産業廃棄物」っていう言葉のイメージも誤解を生みやすい。 確かに元は副産物だけど、JIS規格に則って適切に管理・製造された「鉄鋼スラグ製品」は、もう工業製品。 有害物質の含有量とかも厳しくチェックされてる。 ごみ溶融スラグみたいに、何が混ざってるか分からないものとは、出自が違う。
だから、選ぶ側としては、ただ「スラグ」って呼ぶだけじゃなくて、「JIS A 5015適合の道路用スラグ」みたいに、ちゃんと規格と用途を確認する癖をつけるのが重要だと思う。それがリスク管理になる。
まとめ、というか所感
うーん、こうやって整理してみると、スラグっていうのは「製鉄プロセスの鏡」みたいなもんだな、と思う。鉄から何をどうやって取り除いて、どうやって冷ましたか、その全部が性質に反映されてる。
単なるリサイクル資材っていうより、もう一つの「素材」として確立されてる。 天然資源が有限な中で、こういう副産物をうまく使いこなしていく知恵は、これからもっと重要になるんだろうな。…まあ、そのためには、使う側も正しく理解しないと始まらないんだけど。
この記事を読んで、あなたの身の回りにある道路やコンクリートが、もしかしたら製鉄所から来たスラグでできているかもしれない、と思いを馳せてみるのはどうでしょう? もし建設や製造に関わる方なら、「うちではこう使ってるよ」といった事例があれば、ぜひ教えてください。
